蕎麦好日

2018年05月03日

 子どもの頃、時々家族で行く丼物屋さんでお蕎麦を食べるのがとても楽しみだった。関東だったので、つゆは甘めで蕎麦に程よく絡まり、素朴な蕎麦の味わいに醤油とカツオとみりんの旨味が加わって、蕎麦といったらあの関東の甘じょっぱい味だった。

 関西で暮らすようになり、蕎麦通ではないけれど蕎麦食いの私は、蕎麦を前にするたびに、もしかして今度こそあの甘いつゆなのではないだろうかと毎回期待に胸躍らせる。がしかし、子ども時代に家族揃って食べたあの舌に広がる濃く甘い味に再会できたことはない。

 蕎麦よりうどんの夫だが、先日、珍しく今日はお蕎麦が食べたいねと意見が一致し、蕎麦で有名なまちへ車を走らせた。そこは庭に鯉が優雅に泳ぎ、中庭を囲んでゆっくりとお蕎麦をいただける風情のある老舗のお蕎麦屋さんで、家紋は蕎麦作りの基本「二八蕎麦」にちなみ「額に二八文字」であり、何やら大変に期待できそうな雰囲気が店全体からもう既に醸し出されているのであった。

 ここでは17皿食べると記念品が進呈されるらしく、17皿は平らげると夫に鼻息荒く宣言し、勝手にしいと呆れ顔を前に勢いよく食べ始めた。薬味は卵、ネギ、山芋、山葵、そしてつゆはカツオ出汁が舌の奥に残る辛めのつゆであった。結果として17皿を瞬く間に腹中に収め、鶴の絵が描かれた小皿をいただき、夫に記念写真を撮ってもらった。写真には、20皿はいけたなと不遜顔で不敵な笑みを浮かべる私が写っているのであった。
(土性里花・グループPEN代表)

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